偏光をザックリと数式的に扱ってみる
投稿日:2020年3月8日 更新日:
内容
- 直線偏光、円偏光とは
- 偏光の状態と操作の数学的記述方法(ジョーンズベクトル、行列)
動機
2枚の偏光板を90度回転させて重ねると光が通らない、いわゆるクロスニコルは知っており、直線偏光のイメージは頭の中にありました。しかし円偏光と聞いても、少し前までなんだそれは状態でした。最近なんとなく掴めてきて、偏光状態や偏光の操作を数学的に表せることもこともわかってきましたので、ここで書き出してみようと思います。偏波にも共通することも述べると思いますが、ここでは光に限定して話を進めていきます。
直線偏光・円偏光とは
直線偏光のイメージ
光は電磁波の一種で、波として扱うことができます。波は光の進行方向に対して垂直に振動するわけですが、”垂直に振動”といってもいろいろな振動方向が考えられます(下図の偏光板を通る前)。このいろいろな振動方向のうち、ある一方向の波のみを切り取ったものが、直線偏光となります(下図の偏光板を通った後)。直線偏光は一方向にのみ振動しているため、光が進む正面から振動をみると直線にみえます。
直線偏光の角度を変える
直進する一本の光の中に、いろいろな振動方向の光が含まれるとき、この光を通す偏光板(直線偏光に切り出すフィルタ)の角度を変えれば、角度の異なる直線偏光が得られます。
では既に偏光板で切り出した直線偏光の角度を変えるにはどうしたらいいでしょうか。それには、縦方向の直線偏光と横方向の直線偏光の成分の比率を変えることで実現できます。
ベクトルのように考えて縦成分と横成分の大きさが決まれば、縦方向と横方向ベクトルの和である斜め方向のベクトルが決まり、その斜め角度も決定できます。例えば、水平線から45度傾いた直線偏光であれば、縦成分と横成分の強度比を1:1にすることで表現できます(下図)。このように縦成分と横成分の強度比から直線偏光の角度が決定し、この比率を変えれば角度を変えることができるということになります。
円偏光を作り出す
それでは円偏光の話に入っていきます。円偏光は縦成分の波と横成分の波の位相がπ/2(つまり波の山と山の間隔λ÷4)ずれているときにみられます。つまり横成分と縦成分のそれぞれの波の山(最大値)になるタイミングがずれると、縦成分と横成分の和となるベクトルは回転するようになります。縦と横成分の波の山が揃っていると直線を描き、λ/4ずれていると円を描き、それ以外だと楕円を描きます。円・楕円の場合、縦と横のどちらの山が先に来るかによって、右回転・左回転が決まります。
数学的な取り扱い(ジョーンズ計算法)
波の数式表現
波といったらまず思い浮かぶのはサイン波(コサイン波)でしょう。 しかし工学的によく利用されるのは$e^{i\theta}$のような複素数です($i$ :虚数)。これは有名なオイラーの公式
$$\cos\theta+i\sin\theta=e^{i\theta} $$
の通り、コサインに $-i\sin\theta$ という虚数部分がくっついたものであると解釈でき、単純なコサインよりも計算が便利になることが多々あるため利用されます。これを複素正弦波と呼びます。z方向に進む光があるとき、波は $e^{i(\omega t-kz)}$( $\omega$ : 角周波数, $k$: 波数)で示せます。横方向・縦方向それぞれの振幅を $E_x$, $E_y$とすると、それぞれ $$\left(\begin{array}{c}E_x\\ E_y\end{array}\right)=\left(\begin{array}{c}A_xe^{i(\omega t-kz)}\\ A_ye^{i(\omega t-kz+\phi)}\end{array}\right)$$
($A_x$, $A_y$: $E_x$, $E_y$ の振幅の大きさ, $\phi$: $E_x$ と $E_y$ の位相差)になります。
横成分・縦成分の表現
横方向の振幅と縦方向の振幅を数学的に示したものとして、ジョーンズベクトルというものがあります。これは縦成分・横成分それぞれの振幅を$x$, $y$として表したものになります。加えて縦・横成分の位相差の情報も虚部に含まれています。縦・横それぞれの成分を
$$\displaystyle \left(\begin{array}{c}E_x\\ E_y\end{array}\right)=\left(\begin{array}{c}A_xe^{i(\omega t-kz)}\\ A_ye^{i(\omega t-kz+\phi)}\end{array}\right) =\left(\begin{array}{c}A_xe^{i(\omega t-kz)}\\ A_ye^{i(\omega t-kz)}e^{i\phi}\end{array}\right)$$
としたとき、共通項をひとくくりにして $$\displaystyle \left(\begin{array}{c}E_x\\ E_y\end{array}\right) =e^{i(\omega t-kz)}\left(\begin{array}{c}A_x\\ A_ye^{i\phi}\end{array}\right)$$
になり、この$\displaystyle \left(\begin{array}{c}A_x\\ A_ye^{i\phi}\end{array}\right)$の部分がジョーンズベクトルになります。$E_x$ と $E_y$ の位相差 $\phi$ が$\pi/2$ の場合、$e^{i\pi/2}=\cos(\pi/2)+i\sin(\pi/2)=0+i=i$となり、ジョーンズベクトルは $$\displaystyle \left(\begin{array}{c}1\\ i\end{array}\right)$$
となります。このような形で位相情報を積で示せるのが複素数の利点の1つだといえます。なおベクトルの大きさを1に規格化するのが一般的であるため $$\displaystyle \left(\begin{array}{c}E_x\\ E_y\end{array}\right) =\frac{1}{\sqrt{A_x^2+A_y^2}}e^{i(kz-\omega t)}\left(\begin{array}{c}A_x\\ A_ye^{i\phi}\end{array}\right)$$
とした$\displaystyle \frac{1}{\sqrt{A_x^2+A_y^2}}\left(\begin{array}{c}A_x\\ A_ye^{i\phi}\end{array}\right)$部分がジョーンズベクトルになります。
偏光の操作
横と縦のそれぞれの波の位相差を変えることによって、直線偏光の角度を変えたり直線偏光から円偏光に変えたりする働きをするのが波長板です。この働きを数学的に記述するものに、ジョーンズ行列(ジョーンズマトリックス)があります。これはある偏光状態を示すジョーンズベクトルに作用することによって、別の偏光状態を意味するジョーンズベクトルに変換する働きをします。例えば、x軸から45度傾いた方向に振動している直線偏光のジョーンズベクトルは
$$\displaystyle \frac{1}{\sqrt{2}}\left(\begin{array}{c}1\\ 1\end{array}\right)$$
であり、これにジョーンズ行列$\displaystyle \left(\begin{array}{cc}1&0\\ 0&i\end{array}\right)$を作用させると $$\displaystyle \left(\begin{array}{cc}1&0\\ 0&i\end{array}\right)\frac{1}{\sqrt{2}}\left(\begin{array}{c}1\\ 1\end{array}\right)=\frac{1}{\sqrt{2}}\left(\begin{array}{c}1\\ i\end{array}\right)$$
となり、円偏光に変換されたことになります。 $\displaystyle \left(\begin{array}{c}1\\ i\end{array}\right)$では、$x$が1に対して$y$が$i$、すなわちx軸方向の波に対してy軸方向の波の位相差が $\pi/2$ であることになり、円偏光を意味しています。このように直線偏光と円偏光とを変換することのできる光学素子は $\lambda/4$波長板といいます。また直線偏光の傾きや、円偏光・楕円変更の回転方向を変えることができる $\lambda/2$ 波長板というのも存在します。
まとめ
縦方向と横方向の波の強度比、位相差を変えることで直線偏光や円偏光を表現することができる 偏光状態は、縦・横方向のそれぞれの波の強度と位相情報を示したジョーンズベクトルによって記述できる 偏光状態は波長板などの光学素子によって変換でき、この作用はジョーンズ行列によって記述できる こうやって数学的に波を扱ってみると、複素数が便利であることが実感できますね。